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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)971号 判決 1977年12月20日

昭和四九年(ネ)第九七一号事件控訴人

同第九七二号事件被控訴人以下「債権者」という。 三宅一久

右訴訟代理人弁護士 大白慎三

同 大白勝

同 平田雄一

同 井上史郎

昭和四九年(ネ)第九七一号事件被控訴人

同第九七二号事件控訴人以下「債務者西」という。 西元康

昭和四九年(ネ)第九七一号事件被控訴人

同第九七二号事件控訴人以下「債務者会社」という。 株式会社母倉工務店

右代表者代表取締役 母倉敬久

右両名訴訟代理人弁護士 北山六郎

同 山本弘之

同 辻晶子

右両名訴訟復代理人弁護士 村田由夫

同 土井憲三

主文

一(1)  債務者らの控訴に基づき、原決定および原判決を取り消す。

(2)  債権者の本件仮処分申請を却下する。

二  債権者の本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも債権者の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  昭和四九年(ネ)第九七一号事件

(債権者)

原判決中、原仮処分決定(以下原決定という)を変更した部分を取り消す。

原決定のうち第二項及び第三項を認可する。

訴訟費用は第一、二審とも債務者らの負担とする。

(債務者ら)

債権者の控訴を棄却する。

右控訴による訴訟費用は債権者の負担とする。

二  昭和四九年(ネ)第九七二号事件

(債務者ら)

主文第一、二項同旨

訴訟費用は第一、二審とも債権者の負担とする。

(債権者)

債務者らの控訴を棄却する。

右控訴による訴訟費用は債務者らの負担とする。

《以下事実省略》

理由

一  債務者の仮処分抵触の主張について

これに対する判断は原判決のとおり(ただし「当裁判所に顕著な事実である」とあるのを「成立に争いのない疎乙第四号証と債務者西の当審供述により認められる」と改める。)であるからこれを引用する。

二  債務者の本件仮処分申請が二重起訴に当るとの主張について

《証拠省略》によれば、債権者は昭和四八年三月一三日神戸地方裁判所に対し、債務者らを相手方として本件建物の建築工事続行禁止の仮処分を申請し、同裁判所は債権者の右申請について保証決定をしたが、債権者が期限までに保証を供託しなかったため、同裁判所は同年五月一〇日右仮処分申請を却下する旨の決定をし、右決定に対して抗告の申立がなかったことが認められる。すると、右仮処分申請事件はもはや裁判所に係属していないというべきであって、本件仮処分申請が二重起訴に当るとの債務者らの主張は理由がない。

三  債権者が本件土地の北東側に隣接する土地上に存する二階建家屋に居住していること、本件建物が鉄筋コンクリート造陸屋根六階建の最高の軒高一七・一〇メートルの従業員寮であって、債務者西はその建築主、債務者会社はその建築施工者であることは当事者間に争いがない。

《証拠省略》を綜合すると、債務者会社は債務者より本件建物の建築を請負い、債権者主張の延面積、建ぺい率、最高の高さで昭和四七年一二月二八日市の建築確認を受けたが、債権者その他附近住民らからの反対、債権者からの仮処分申請(後日却下になったもの)等を勘案して、本件建物の東西の両側面をそれぞれ約二〇センチメートルずつ控えることにし、延面積五九二・七二平方メートル、建ぺい率五六・六七パーセント、最高の高さ一七・五〇メートルの建物に設計変更し、昭和四八年四月一九日工事に着手したが、債権者から同年八月八日再び仮処分申請(本件申請)がなされ、同年一〇月二二日原裁判所から、「本件建物のうち四階を超える部分及び四階南東角一室について債務者らの占有を解いて神戸地方裁判所執行官にその保管を命ずる。債務者らは右部分について、建築工事を中止し続行してはならない。執行官は債務者らの申出があるときは、右部分の外装工事に限りこれを許可することができる。」旨の仮処分決定並びに同年同月二九日「右仮処分決定の主文第三項を『執行官は、債務者らの申出があるときは、左の工事の施工を許可することができる。(一)右部分の外装工事(バルコニー仕上工事を含む)(二)高架水槽、クーリング・タワー、洗たく場及び物干場、テレビ塔設置工事(三)階段室の工事(四)配管及び配線工事』と更正する。」旨の更正決定(本件原決定)を受け、右範囲に工事を制限せられたが、昭和四九年四月二二日異議訴訟の判決(本件原判決)が言渡され、「原決定のうち、第一項を認可し、第二及び第三項を『執行官は債務者らの申出があるときは右各部分について建築工事の続行を許可し、工事完成のうえは現状を変更しないことを条件として本案判決確定の日まで債務者及びその従業員に限りその使用を許可しなければならない。』と変更する。」旨の判決があり、事実上制限が解かれたので、工事を再開して建物全部を完成し、これを債務者西に引渡したこと、債務者西は医師であって看護婦その他従業員約四〇名を擁する外科病院を経営しており、本件建物は看護婦寮として建設し、現にその用途に使用しているもので、本件建物の占有を他に移したり、占有態様を変える意思は全くないこと、本件仮処分の本案訴訟は未だ提起されていないこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

四  そうだとすると、本件建物のうち四階を超える部分及び四階南東角一室について建築工事の続行を禁止する仮処分を認める余地は存在しないし、右部分について執行官保管、債務者及びその従業員に対してのみ使用を許可する仮処分もその必要性を欠くものといわなければならない。従って被保全権利の点について判断するまでもなく、債権者の本件仮処分申請は排斥を免れない。

五  よって、債務者らの控訴に基き、原決定を取り消し、債権者の本件仮処分申請を却下し、債権者の控訴を理由なしとして棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 今中道信 裁判官志水義文は差支えにつき署名押印できない。裁判長裁判官 小西勝)

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